政策リサーチはどのような手順で進むのか
政策リサーチを扱った先のコラムでは、問題の原因を探り、因果関係を探究することが、説得力のある提言の土台になると述べました。今回は、その政策リサーチを実際にどのような手順で進めればよいのかを考えてみたいと思います。
政策リサーチは、おおむね次の流れで進みます。
- リサーチ・クエスチョンを立てる:何を問うのかを定め、調査の計画を組み立てる
- 仮説を立てる:因果関係を想定し、用いる概念を明確にする
- データを収集する:現場の観察や関係者への聞き取り、各種の調査を行う
- 仮説を検証する:集めたデータを分析し、推論する
- 結果をまとめ、示す:検証の結果を文書や口頭で関係者に示す
- リサーチの結果を政策化する:政策手段を選び、その効果を評価する
1から3までと並行して、文献や資料の調査と収集、つまり文献リサーチも進めます。4までで因果関係が明らかになれば、リサーチそのものはいったん完結します。
なぜ政策化の前に結果を示すのか
パブリックアフェアーズに取り組む立場から見て、この手順でとくに意味をもつのは、5と6の順序です。
事業者や業界団体が行政や議会に働きかけるとき、多くの場合、最初に用意されるのは要望書です。しかし、上の手順に照らせば、要望、つまり政策化は6番目の作業にあたります。4までで問題の因果関係を特定したら、まずその結果を関係者に示し、問題の構造についての理解を共有します。そのうえで、どのような政策が望ましいのかを検討する、という順序が望ましいと考えます。
なぜでしょうか。いきなり要望から入ると、相手はまず、その要望が誰の利益になるのかを見きわめようとします。これに対して、問題がなぜ起きているのかという分析から入れば、相手は同じ問題を前にした検討の相手になります。原因についての理解が共有されていれば、そこから導かれる政策案もまた、受け止められやすくなるでしょう。以前のコラムで述べた、理由をもって語るということの、具体的なかたちのひとつと言えます。
そして6で政策化をしたあとは、発表ではなく実行の段階、つまり行政や議会が政策を具体化し、決定していく段階に移ります。パブリックアフェアーズの担い手にとっては、提言を正式に届け、その後の検討に伴走していく局面です。
各段階では何が問われるのか
それぞれの段階で求められることを、もう少し詳しく見ておきます。
リサーチ・クエスチョンを立てる段階では、何を問うかが決定的に重要です。問がぼやけていれば、その後の調査も提言もぼやけてしまいます。
仮説を立てるとは、論理的な思考によって、頭のなかで因果関係を組み立ててみる作業です。ここでは論理性や発想力が問われ、現場で培った知識や経験も役立ちます。仮説は論理的であるとともに、検証できるものでなければなりません。仮説を立て、因果関係について考えるという作業そのものが、政策を構想する力を高める訓練にもなります。
文献リサーチとデータの収集では、どこにどのような資料があり、どうすれば探し当てられるのかを知ることが大切です。この知識は調査に役立つだけではありません。勉強会に招く有識者を探したり、審議会の委員構成を把握したり、シンポジウムを企画したり、研究者のコミュニティと接点をもったりと、パブリックアフェアーズのさまざまな局面で生きてきます。
仮説の検証には、実験、比較、統計、事例研究といった方法があります。大切なのは、細かな技法よりも、それらを貫く基本的な考え方を押さえることです。観察から得られた材料を使って分析し、推論し、結論を導くという筋道は、学術論文が書かれる筋道でもあります。これを身につけておけば、審議会の資料や専門家の報告書も読みやすくなるはずです。
結果をまとめる段階では、口頭での説明だけでなく、報告書のように文章のかたちにすることが重要です。文章に書き起こし、論理の流れを繰り返したどることが、論理的な思考を鍛えるうえで最も効果的だからです。
最後の政策化では、リサーチの結果に見合った政策手段を選ぶことになります。政策課題は多種多様であり、それに対処する手段も規制、補助、情報提供、事業者の自主的な取り組みなどさまざまです。ところが、どの問題にどの手段を使えば効果があるのかについての知見は、法学、経済学、行政学などに分散しており、まとまった手引きは多くありません。だからこそ、政策手段の全体像を見渡したうえで選び、作成した政策案をどのように評価して選択の材料とするのかまで考えておく必要があります。これが、政策提言型のリサーチにあたります。
手順に従うことは、発想を縛るのか
このように手順を定めると、型にはめすぎではないかという批判があるかもしれません。たしかに、リサーチでは自由な発想こそが発揮されるべきであり、問の立て方まで細かく定めるのは、発想の妨げになりかねません。
しかし、政策の検討にはそれぞれの日程があります。審議会の取りまとめや議会の会期といった節目を前にすると、使える時間はかぎられていることが少なくありません。そのなかで調査を企画し、結果をまとめ、提言にまで行き着くには、ある程度定まった手順に沿って進めるほうが効率的です。また、現場の課題を調べて提言しよう、と言われても、可能性が広すぎて、何から手をつけてよいかわからなくなることもあります。ともかく最初は、定型的でも流れに乗って、ひととおり試してみるほうが進めやすいのです。
ひとまず手順に沿って、仮説の検証まで進めてみる。その結果、本当に追いかけるべき問が見つかれば、それをとことん掘り下げればよいでしょう。逆に、発想が縛られていると感じたなら、最初に戻って、もっと自由に問を立て直せばよいのです。そのときにはもう、方法論がひととおり身についているはずですから、途方に暮れることはありません。型は発想を縛るためのものではなく、自由に考えるための足場なのだと、私たちは考えています。
提言書を書く前に何をすべきか
提言書を書くことは、政策リサーチの最後の段階です。その前に、何を問い、どのような因果関係を想定し、それをどう確かめたのかを積み重ねておく必要があります。その積み重ねこそが、提言を単なる要望ではなく、社会にひらかれた政策の提案へと変えていくのだと思います。加えて、その分析が丁寧に行われていれば、別の様々な可能性がひらいていくのです。
参考文献
- 伊藤修一郎『政策リサーチ入門――仮説検証による問題解決の技法』東京大学出版会、2011年、9-12頁
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