「現場のことは自分たちがいちばんわかっている」の落とし穴――パブリックアフェアーズのための政策リサーチ

コラム

政策リサーチとは何か

 パブリックアフェアーズに取り組むとき、欠かせない作業があります。それが政策リサーチです。「政策リサーチ」とは、政策案や提言書をつくるための基礎となる知識を生み出す営みのことです。行政や議会に何かを求めるのであれば、その求めがどのような事実と論理に支えられているのかを、あらかじめ明らかにしておかなければなりません。

 政策リサーチに携わる人はさまざまです。企業の渉外担当者もいれば、業界団体の職員、NPOのスタッフ、地域で活動する市民もいます。専門性の水準は人によって異なりますが、だれもが調査の指針となる方法を必要としている点は変わりません。そこで手がかりになるのが、社会科学の研究方法を政策の検討に応用した、因果関係を探究する仮説検証型の方法論です。

なぜ因果関係を問うのか

 なぜ社会科学の方法が、パブリックアフェアーズに役立つのでしょうか。たとえば、ある規制が自社の事業の妨げになっていると感じている場面を考えてみます。あるいは、自社のサービスをめぐって近隣からの苦情が増え、規制強化の議論が起きつつある場面でもかまいません。

 いずれの場合も、まず問われるのは、問題を引き起こしている原因は何かということです。原因がすぐには見出せない複雑な問題であれば、各地の取り組みを調べたり、業界内でさまざまな対策を試したりといった試行錯誤が必要になるでしょう。それでも最終的には、うまくいった対策を特定し、その対策がなぜ効果をあげたのかというメカニズムを確かめたうえで、提言にまとめていくはずです。これもまた、対策と効果のあいだの因果関係を明らかにする作業です。つまり、問題の原因を探り、因果関係を探究することが、説得力のある政策提言等の土台となるのです。

 幸いなことに、因果関係を探究する調査や研究は、社会科学の中心的な営みのひとつです。そのための方法論は、研究者のあいだで広く共有されています。この方法論や考え方をパブリックアフェアーズにも応用すれば、提言の質を確実に高めていくことができると考えられます。

自社の問題は、自社だけの問題なのか

 もっとも、こうした考え方には反論も予想されます。「現場のことは自分たちがいちばんよくわかっている。まどろっこしい調査よりも、とにかく要望を出したい」というものです。社会科学では、同じ種類の問題とみなせる複数の事例に共通してあてはまる原因を特定し、どの事例にも通用する因果関係を探究します。目の前の課題を一刻も早く解決したいと考える事業者が、こうした方法をまどろっこしいと感じるのも無理のないことです。言いかえれば、自社が直面している個別の問題を解決したいのに、一般的な原因まで解明する必要があるのか、という疑問になるでしょう。

 しかし、自分たちが原因だと考えているものが、本当に問題を引き起こしているのでしょうか。そう思い込んでいるだけで、背後にある真の原因を見逃しているおそれはないでしょうか。自社や自社の地域だけを見ていると、見逃しの可能性は高まります。原因を見誤ったまま提言をすれば、効果がないばかりか、かえって問題を悪化させかねません。パブリックアフェアーズの場合には、さらに、提言そのものが信頼を失い、次の機会に声が届きにくくなるという代償も伴います。

 パブリックアフェアーズで扱う課題の多くは、個社や一地域だけで起きているわけではありません。全国で、場合によっては、世界各地で起きています。宿泊施設をめぐる近隣とのトラブル、物流の担い手不足、空き家の増加、観光地の混雑といった問題は、いずれも各地で繰り返し起きています。こうした問題を多くの地域に共通する課題としてとらえ、多くの事例を一貫して説明できる因果関係を見つけることが、遠回りのようで、問題の本質に迫る早道なのです。

 加えて、多くの事例に通じる因果関係として示された提言は、一事業者の個別の事情を超えて、社会全体にかかわる提言として受け止められやすくなります。これまでのコラムで述べてきた公共性の観点から見ても、この点は重要だと考えます。

政策リサーチにはどのようなタイプがあるのか

 政策リサーチは、その目的と方法によって、大きく三つのタイプに分けることができます。

  1. 現状分析型:問題の現状を理解することを目的とし、観察された事柄を記述し、分類するといった方法
  2. 原因探究型:問題の原因を探ることを目的とし、仮説を立て、それをデータや観察によって検証する方法
  3. 政策提言型:政策を提言することを目的とし、その政策が実施された際の効果を予測し、事後的に評価する方法

 ただし、政策評価の方法も、突き詰めれば原因探求型と同じ方法論に行き着きます。政策評価とは、問題が解決した、あるいは解決しなかったのはなぜか、その原因は政策にあるのかを問い、因果関係を探究することにほかならないからです。

 3つのタイプは、現状分析から原因探究へ、そして政策提言へという流れで整理できます。しかし、この区別は相対的なものです。問題の原因を探るには現状を知ることが必要ですし、現状がわかれば、なぜそうなっているのかを知りたくなるでしょう。原因を突き止めることができれば、それを解決するための提案が求められるのは当然です。逆に、提言を説得力のあるものにするには、問題の構造や発生の原因を明らかにしなければなりません。実際の調査では、3つのタイプは入り混じり、順番も前後するものです。

 それでも、このように整理しておくことには意味があります。パブリックアフェアーズに使える時間や予算はかぎられています。いま取り組んでいる調査がどのタイプにあたるのかを把握しておけば、それに見合った方法を選ぶことができるからです。

パブリックアフェアーズでは何を重視すべきか

 なかでも私たちが重視したいのは、原因探究型のリサーチです。問題の原因を突き止めることが、解決策を立てるための前提となるからです。また、この方法は社会科学が得意とするところであり、身につけておけば、さまざまな課題に応用できるだけでなく、自らが提言した政策の効果を検証する場面にも生かすことができます。

 現場の声は、パブリックアフェアーズの出発点です。しかし、現場の声を政策に結びつけるには、その声が何によって生じているのかを確かめる作業が欠かせません。思い込みではなく、検証された因果関係にもとづいて語ることが、提言を社会に受け入れられるものにし、政策の扉をともにひらくための確かな一歩になると、私たちは考えています。

参考文献

  • 伊藤修一郎『政策リサーチ入門――仮説検証による問題解決の技法』東京大学出版会、2011年

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